使途不明金
目次
1 はじめに
相続の事件において、実際に遺産を分けようとした際に、遺産が思ったより少なく、調べてみたら多額の預金が引き出されていて、使途不明金があったということはよくあります。
誰が引き出したのか、何のために使ったのかというところから始まり、この使途不明金が争いになることは少なくありません。
そして、遺産に関することなのだから、遺産分割の調停で争えば当然にこの問題を取り上げてもらえ、裁判所も解決に協力してくれると多くの方はお考えになると思います。
しかしながら、遺産分割の対象となる財産は、原則として相続時だけではなく、分割時にも存在するものでなければなりません。
そのため、被相続人の預金が引き出され使途不明金の場合、これが話し合いの対象から外れ、別途争わなければならないのが原則となります。
もっとも、この使途不明金問題を調停の中で話し合うことで解決できることもありますし、例外的に遺産の対象とすることができる場合もあります。
2 存命中の預金引き出し
これから遺産分割調停で話し合いをするため、被相続人の死亡時における残高を確認したところ、不自然に少ないということがあります。
不審に思った相続人が、その取引履歴を調べたところ、被相続人の存命中、不自然に多額の預金が引き出されていたことが判明し、遺産をどう分けるかという以前に、誰が何のために預金を引き出したのかという問題が噴出することがあります。
この場合、この使途不明金の問題をどのように解決していけば良いのでしょうか。
冒頭述べたとおり、遺産分割の対象は、分割時に存在している財産ですので、使途不明金の問題は基本的に調停での話し合いの対象外です。
もっとも、この使途不明金について相続人間で協力し合い、話し合いで解決できるのであれば、それに越したことはありません。
そこで、以下のような順序で話し合いをしてみることが考えられます。
- 誰が預金を引き出したのか
まずそもそも誰が引き出したのかを特定する必要があります。被相続人の預金を管理していた人が誰なのか、というあたりから事実確認をしていくことが必要です。
ここから、争いになってしまうようであれば、話し合いはそれ以上進められません。 -
使途について
誰が引き出したかが明らかになれば、次に問題になるのは、その理由です。
典型的には以下のような理由が考えられます。- 被相続人に無断で引き出し、自己使用していた場合
この場合は、相続人の1人が遺産になるべき財産を勝手に先取りしてしまったということなので、その前提で遺産分割の話し合いを進めればよく、通常大きな問題にはならないと考えられます。 - 使途について説明がなされた場合
使途について、引出しをした当該相続人から合理的な説明がなされた場合(被相続人のために使用したなど)には、残された財産を分ける話し合いをすることになります。
ただし、ある程度話し合いを重ねても、当該説明に納得できない相続人がいるような場合には、調停での話し合いには限界があると思いますので、その場合は別途訴訟提起をして、解決を図る必要があります。 - 贈与の主張がなされた場合
被相続人から贈与されたという説明がなされた場合ですが、この贈与の事実を争わないのであれば、あとは遺産分割における特別受益の問題として話し合いを進めることになります。
一方で、贈与について争いになってしまうようであれば、なかなか話し合いでの解決が難しいので、訴訟の中での解決が必要となります。
- 被相続人に無断で引き出し、自己使用していた場合
3 相続人による遺産の引出し
被相続人が亡くなった後、遺産分割を行う前に、誰かが遺産である預金を引き出すなど、遺産の処分をしてしまっている場合にはどうなるのでしょうか。
この場合も、分割時に当該預金は引き出されてしまっているので、引き出されてしまったものを遺産分割の対象にして話し合うことは、当然にはできません。
ただ、相続法の改正により民法906条の2が新設されましたので、一定の場合には、遺産の対象にして、話し合いをすることが可能となります。
- 共同相続人全員の同意(同条1項)
共同相続人全員が処分された財産も遺産分割の対象とすることに同意すれば、当該財産も分割時に存在するものとみなすことができ、遺産分割の対象とすることができます。
これは従前より判例で認められていたのですが、相続法の改正で条文として明確化されました。 - 引出しをした共同相続人以外の共同相続人の同意(同条2項)
また、同条2項では、1項の定めにかかわらず、共同相続人の1人が遺産を処分してしまった場合、当該処分をした相続人の同意を得る必要はなく、残りの共同相続人が同意をすれば、処分された財産も遺産分割の対象にできる旨が定められました。
そのため、預金を引き出した者が相続人であれば、その者の同意なしに、引き出された預金も含めて遺産分割を行うことができ、預金を引き出した相続人は既に遺産の一部を受け取っている前提で遺産分割をすることが可能となります。
ただし、遺産の処分が相続人全員の利益のために行われたような場合には、処分された財産を遺産分割の対象にする必要はありませんので、処分した相続人より使途の説明を受けることは必要になってきます。
なお、遺産を処分した者が誰かについて争いがあり、容易に特定することができない場合には、同条項を適用する前提を欠きますので、その場合は調停の中での解決はできず、別途訴訟提起をし、その中で判断されるべきと考えられます。
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