相続にまつわる話

寄与分

目次

具体的相続分の確定 ‐ 特別受益と寄与分

 相続の開始後、相続人は、相続財産について持分を取得しますので、遺産は共有状態となっています。この共有状態を解消するものが、遺産分割です。
 もっとも、法定相続分や指定相続分に応じて、遺産分割を進めると、公平に反するような場合があります。例えば、特定の相続人が、被相続人から、生前に贈与を受けているような場合や、特定の相続人が、相続財産の維持や増加に特別の貢献をしていたような場合です。
 このような不公平を是正するために、特別受益の持戻し(903)と寄与分制度(904条の2)があります。
 特別受益の持戻しや寄与分により、指定相続分・法定相続分に一定の修正を加えた相続分の額を、具体的相続分といい、具体的相続分が、遺産分割をするときの基準となります。

寄与分

 相続人の中に、被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした相続人がいる場合は、その寄与の程度を考慮して、その相続人に対して、特別に、相続財産への持ち分が認められます。
 この持ち分のことを寄与分と言います。

寄与分の類型

 寄与は、被相続人の財産の維持・増額に寄与する行為でなければなりません。
 その類型は、以下のものがあります。

  1. 被相続人の事業に関する労務の提供
  2. 被相続人の事業に関する財産上の給付
  3. 被相続人の療養看護
  4. その他の方法

 寄与行為は、「特別」といえる寄与でなければならず、親族として通常期待されるレベルの行為では、寄与にあたりません。
 また、寄与行為により、被相続人の財産が増加したり、あるいは、財産の減少を防止した行為である必要があります。

 寄与分は、共同相続人間の協議で定めますが、協議が調わない場合や協議ができないときは、家庭裁判所の調停や審判で定められます(904条の2第2項)。

寄与分の算定

 寄与分は、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して裁判所の裁量により定められます(904条の2第2項)。ですので、遺言書で寄与分を指定しても、寄与分として意味があるものにはなりません。
 寄与分は、相続財産の価額から、遺贈の価額を控除した額を超えることはできません(904条の2第3項)。
 例えば、相続財産が5000万円、遺贈の価額が3000万円だったとき、寄与分は2000万円を超えることはできませんし、遺言で、遺産全部が遺贈されていた場合などは、寄与分を定めることはできません。
 寄与分は、条文上は、他の相続人の遺留分を侵害するような算定をすることも可能です(寄与分は遺留分に優先する、と言われることもあります)。しかし、他の相続人が遺留分を有していることも、寄与分を考慮する「一切の事情」のなかの1つの事情にはなります(東京高等裁判所平成3年12月24日決定)。

寄与分がある場合の、相続分の算定方法

 被相続人Xの相続人は、配偶者Yと、子A及びBだとします。
 相続財産は5000万円、Bに寄与分1000万円が認められるとします。
 まず、相続財産の総額から、寄与分を控除します。
5000万円 - 1000万円 = 4000万円
 この4000万円を、みなし相続財産といいます。
 みなし相続財産に、相続分を乗じて、一応の相続分額を算定します。
 Yの一応の相続分額 =4000万円×2分の1=2000万円
 Aの一応の相続分額 =4000万円×4分の1=1000万円
 B の一応の相続分額 =4000万円×4分の1=1000万円

 最後に、一応の相続分の額に、寄与分額を加算します。
 Bの相続分額=1000万円 + 1000万円 = 2000万円

 結局、Yの具体的相続部は2000万円、Aは1000万円、Bは2000万円となります。

寄与分と特別受益がある場合の相続分の算定方法

 寄与分と特別受益、どちらもある場合の相続分の算定方法について、ご説明します。
 被相続人の相続財産は3000万円、相続人は子Aと子Bの2人というケースです。
 子Aは、特別受益として1000万円の生前贈与を受けており、子Bは、寄与分として1000万円が認められるとします。
 まず、相続財産に特別受益を加え、寄与分を控除します。
 3000万円(相続財産)+1000万円(特別受益)-1000万円(寄与分)=3000万円
 この3000万円が、みなし相続財産です。

 次に、相続人の一応の相続分(法定相続分または指定相続分)を計算します。
 子Aと子Bの一応の相続分は、いずれも 3000万円(みなし相続財産) ✕2分の1 =1500万円です。

 最後に、各自の一応の相続分から、特別受益を控除し、寄与分を加算します。
 子Aの具体的相続分 1500万円(一応の相続分)-1000万円(特別受益)=500万円
 子Bの具体的相続分  1500万円(一応の相続分)+1000万円(寄与分)=2500万円

期間制限

 令和3年民法改正により(令和5年4月1日施行)、民法904条の3に「相続開始時から10年を経過した後にする遺産分割は、具体的相続分ではなく、法定相続分による」と規定されました。
 これにより、被相続人が死亡(相続開始)してから10年が経過すると、原則として、寄与分や特別受益の主張ができなくなり、法定相続分を基準とした遺産分割しかできなくなります。