相続にまつわる話

遺産の範囲

目次

相続財産とは

 民法896条本文は、「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」と定めており、相続では、被相続人に属していた様々な権利や義務が、一括して、全体として相続人に承継されることになります。
 具体的には、預貯金、株式、不動産、車両など、プラスの財産が相続財産になりますし、借金などのマイナスの財産も相続財産になります。
 なお、民法896条ただし書きは、「被相続人の一身に専属したもの(一身専属的な権利義務)」は、権利義務の承継の対象外としています。具体的には、雇用契約上の地位(625条)や、離婚前の夫婦の財産分与請求権などは、相続の対象外です。

生命保険

 生命保険金が相続財産に属するかどうかは、保険契約で、保険金受取人がどのように定められているかによって決まります。

  1. 特定の人が保険金受取人に指定されているときは、生命保険金は相続財産ではありません。また、保険金の受け取りは、原則的には特別受益(903条)にも該当しません(最決平成16年10月29日)。生命保険が多額で、相続財産と比べたときの割合も大きく、その他の共同相続人との間で不公平な結果になってしまうような場合には、例外的に特別受益となることもあります。
  2. 単に「相続人」が保険金受取人に指定されているとき、保険金は相続人の固有の財産となり、相続財産には含まれません(最判昭和40年2月2日)。
     なお、相続税の申告にあたっては、保険金は相続によって取得したものとみなして相続税が課税されます。また、単に「相続人」を保険金受取人に指定した場合は、特段の事情がない限り、相続人が保険金を受け取るべき権利の割合を相続分の割合によるとする旨の指定も含まれ、保険金受取人の有する権利の割合は、法定相続分の割合になります(最判平成6年7月18日)。
  3. 保険金受取人が、被相続人自身である場合は、保険金は相続財産となりますので、遺産分割が必要です。
  4. 保険金受取人の指定がない場合は、生命保険契約の約款を確認する必要があります。「指定のないときは保険金を被保険者の相続人に支払う」という条項があった場合は、「相続人」を保険金受取人と指定した場合と同様です。

死亡退職金、遺族給付

 死亡退職金は、相続財産には属しません。
 遺族は、死亡退職金支給の根拠となる規程の定めにより、直接に自己固有の権利として取得すると理解されています(最判昭和55年11月27日)。
 遺族給付も、相続財産には属しません。
 なお、民法903条の特別受益に該当するかどうかは、裁判例は分かれています。

香典・葬儀費用

 香典は、喪主に対する贈与であって、相続財産には属しません。
 葬儀費用は、喪主が負担するべきものであって相続財産に関する費用ではなく、共同相続人全員の合意があった場合は別として、遺産分割の対象となるものではないとされています(東京地判昭和61年1月28日)。ただし相続人全員が相続放棄をして、相続人が不存在の場合には葬儀費用は相続財産が負担するという東京地裁昭和59年7月12日判決があります。