相続の放棄と承認〈限定承認〉
弁護士 幡野真弥
限定承認とは、相続財産の限度でのみ被相続人の債務・遺贈を弁済すべきことを留保して相続を承認するという、相続人の意思表示です(民法922条)。
限定承認は、相続財産が債務超過の状態であるかどうかが不明で、単純承認するか相続放棄をするか決めることが難しい場合に有効な方法です。
限定承認をするには、熟慮期間内に、相続人の全員(包括受遺者がいる場合は、包括受遺者も含みます)で相続財産の目録を作成し、これを家庭裁判所に提出して限定承認の申述をします(923条、924条)。
相続を放棄した相続人がいる場合は、この者ははじめから相続人でなかったことになりますので(939条)、相続を放棄した相続人を除く、その他の相続人全員でで限定承認の申述をすることになります。
相続人中に、相続財産を処分した者がいれば、その者は法定単純承認をしたこととなるので、その場合は、相続人全員で限定承認の申述はできません。
なお、相続人中に、相続財産を処分した者がいることが、限定承認の申述受理後に判明した場合は、他の相続人には限定承認の効果は維持されますが、その処分をした者は、単純承認した場合と同等の責任を負い、自己の相続分に応じて、自己の財産から相続債務を弁済しなければなりません(937条)。相続財産を隠匿・消費した場合も同様です。
家庭裁判所が限定承認の申述を受理すると、限定承認者が複数のときは限定承認者のなかから相続財産の管理人を選任し、相続財産管理人が、相続財産の管理や清算をします(926条、936条)。限定承認者が1人のときはこの1人の限定承認者が管理や清算をします。
限定承認の申述が家庭裁判所に受理されると、限定承認者または相続財産管理人は、限定承認後5日以内または相続財産管理人選任後10日以内に、債権者や受遺者に対して、2ヶ月以上の期間を定めて債権の申出をするように催告します(927条1項2項4項、936条3項)。知れている相続債権者および受遺者には個別に債権の申出を催告しなければなりません(927条3項)。この2ヶ月以上の申出期間の間は弁済を拒絶することができます(928条)。
申出期間の満了後、相続債権者のうち①優先権のある相続債権者、②優先権のない相続債権者の順番に、債権額の割合で配当弁済されます(929条)。受遺者への弁済は、債権者への弁済が終わった後になされます(931条)。
配当にあたって、金銭以外の相続財産を換価するときは競売によります(932条)。
期間内に申し出なかったり、知れなかった債権者・受遺者は、残余財産についてだけ権利を行使することができます(935条)。
相続財産の清算を行う相続人で、弁済手続きに関する規程に違反したことによって債権者・受遺者に損害を与えた場合は、これを賠償する責任を負います(934条)。