コラム

相続人〈欠格と廃除〉

弁護士 幡野真弥

 法定相続人であっても、一定の場合、相続権が剥奪される制度が2つあります。
 法律上当然に相続権が剥奪される「欠格」と、被相続人の意思により相続権が剥奪される「廃除」です。

■欠格
 民法891条は、5つの欠格事由を定めています。
 以下の1つに該当する場合は、当然に相続権がなくなります。
①故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
②被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
③詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
④詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
⑤相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者

 欠格事由が相続開始前に生じた場合はその時から、欠格事由があることが相続開始後に判明した場合は、相続開始時にさかのぼって、その者の相続資格が法律上当然になくなります。遺贈を受けることもできません(965条)。
 欠格事由に争いがあれば、他の相続人は、相続開始後に、相続人の地位不存在確認の訴えを提起して、欠格事由の存在を主張することになります。相続欠格事由が判明しないで遺産分割がされたときは、相続回復請求(884条)の問題となります。
 なお、相続欠格者に、被相続人の直系卑属がいたときは代襲相続となります。

 被相続人の意思によって、欠格の効果を消滅させることができるか(欠格の宥恕)について、考え方が別れていますが、相続資格を肯定した裁判例(広島家庭裁判所呉支部審判平成22年10月5日)があります。

■廃除
 廃除とは、被相続人の意思により、家庭裁判所が相続人の相続資格を奪う制度です(892条、893条)。
 廃除は、遺留分をもつ推定相続人(配偶者、直系卑属、直系尊属)についてのみ認められます。遺留分を有しない相続人(兄弟姉妹)は対象外です。
 廃除事由は、以下の2つです。
①被相続人に対して虐待をし、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき
②推定相続人にその他の著しい非行があったとき
 
 廃除の方法は、以下の2つです。
①生前廃除(被相続人が生前に家庭裁判所に請求する方法)
②遺言廃除(被相続人が遺言で廃除の意思を表示し、遺言執行者が廃除の申立を行う方法)
 
 生前廃除の場合、廃除の審判が確定すると、そのときに相続権を失います(戸籍で公示されます)。
 遺言廃除の場合は、相続開始時にさかのぼって、非廃除人は相続権を失います。
 ただし、欠格と異なり、被廃除者は遺贈を受けることはできます。

 廃除は、被相続人の意思に基づく相続資格の剥奪制度ですので、被相続人はいつでも、廃除の取消を家庭裁判所に請求することができます。