コラム

相続における預貯金③

弁護士 長島功

 残された相続人が,生活等のために,被相続人名義の預貯金を急ぎ引き出したいという要請に応えるため,相続法の改正によって,新たな制度ができました。
 前回は,裁判所の仮処分の手続(家事事件手続法200条3項)についてご紹介しましたが,急ぎ判断される手続とはいえ,裁判所の手続であることからどうしても一定の時間がかかってしまうというのがデメリットでした。

 そこで,より迅速に引き出しが可能となる制度として,民法909条の2で認められた遺産分割前の預貯金債権の事実上の払い出しの制度があります。

 これは,預貯金債権が遺産に属している場合,相続開始時の預貯金額の3分の1に,払い出しを受けようとする相続人の法定相続分を乗じた金額であれば,単独で払い出しを受けることができます(もちろん,金融機関には法定相続人であることを示すために戸籍等の必要書類は準備する必要があります)。
 これにより,裁判所の手続を経ることなく,スピーディーに払い出しを受けることができます。
 ただし,払い出しができる金額には上限があり,金融機関ごとに150万円とされています。
 そのため,この制度により,多額の引き出しをすることはできませんが,あくまで制度趣旨が,当面の生活資金等のためであることを考えれば,非常に便利な制度であるといえます。