被相続人の直系卑属でない者を代襲者から除く民法887条2項ただし書
弁護士 長島功
被相続人の子が、相続開始以前に亡くなる等した場合、その子である被相続人の孫が生存していれば、この孫が相続人になります。これを代襲相続といいます。そのため、被相続人と養子縁組をした者が、その養子縁組をした後に子(甲)をもうけ、相続開始前に既に亡くなった場合も、甲が代襲相続をすることになります。
もっとも、養子縁組をする前に甲が既に出生していた場合には、甲は代襲相続はできません。民法887条2項はただし書で「被相続人の直系卑属でないものは除く」としているところ、養子縁組前の子は、被相続人との間に血縁関係が生じず、直系卑属ではないからです。養子縁組の効果について定めた民法727条は、あくまで養子と養親及びその血族との間に血族関係が生じるとしているもので、養親と養子の血族との間に血族関係が生じることを認めている訳ではありません。そのため、養子縁組前の子は、養子の子であったとしても、養親である被相続人との間に血族関係が生じず、被相続人の直系卑属にはならないのです。
この点に関し、争いになったケースとして、大阪高裁平成元年8月10日判決があります。同事案は、被相続人と養子縁組をした者(A)と被相続人の実子(B)との間の子(C)が、Aが既に死亡していたことから、代襲相続できるかが争点となりました。
CがAの養子縁組後の子であれば問題はありませんでしたが、実際には養子縁組前の子でした。そのため、養子Aの観点からみますと、上記のとおり、Cは被相続人の直系卑属ではないこととなりますので、民法887条2項ただし書で代襲相続はできないこととなります。
もっとも、Bとの関係でいえば、被相続人の孫にあたるため、直系卑属となり、その観点も含めて考えれば、代襲相続を認めても良いのではないかと考えられたことから問題となりました。
この点について、判決は、民法887条2項ただし書の趣旨に触れ、
「被相続人の直系卑属でない者」を代襲相続人の範囲から排除した理由は、血統継続の思想を尊重するとともに、親族共同体的な観点から相続人の範囲を親族内の者に限定することが相当であると考えられたこと、とくに単身養子の場合において、縁組前の養子の子が他で生活していて養親とは何ら係わりがないにもかかわらず、これに代襲相続権を与えることは不合理であるからこれを排除する必要があったことによるものと思われる
と判示しました。その上で、この事例に関し、
・Cは被相続人の直系の孫であるから、代襲相続を認めても条項の文言上において直接違反するものではない
・Cには妹がおり、被相続人との家族生活の上においては何ら際の無かった姉妹が、養子縁組前に生まれたか養子縁組後に生まれたかの一事によって、相続権をの有無に差が出ることは極めて不合理であること
を理由として、衡平の観点から代襲相続権はあると判断しました。