遺言の方式 ②自筆証書遺言
弁護士 幡野真弥
今回のコラムでは、遺言の方式の2つ目として、自筆証書遺言についてご説明します。
自筆証書遺言は、遺言の作成者(遺言者)が、遺言書の全文、日付、氏名を自署し、押印すれば成立します(民法968条1項)。公正証書遺言とは異なり、証人や立会人は不要です。
■ 自署
遺言者は、遺言書の全文を自分で書かなければなりません(ただし財産目録については、自署の要件は緩和されています)。自署とは、筆跡によって本人が書いたことを判定できる種類の筆記方法をいいます。
自署は、外国語によるものであってもよいですが、パソコンを使って作成したものや、コピーしたものは、自署には当たりません。また、他人に筆記させた場合も、自署にはあたりません。病気のために手が震えて字が書けないような場合、他人の添え手による補助を受けて書いた場合は、自署の要件を満たすとされています(最高裁昭和62年10月8日)。
コピーは自署にはあたりませんが、カーボン紙による複写の方法で作成された場合は、自署として有効です(最高裁平成5年10月19日)。
■ 日付
日付は、年月日まで特定されるように記載しなければなりません。具体的には、「令和3年9月17日」という記載であれば、有効です。
「自分の60歳の誕生日」「自分の定年退職の日」「息子の結婚日」という記載でも有効ですが、「令和3年9月吉日」では日の特定ができないため、無効と判断されています(最高裁昭和54年5月31日)。
■ 氏名
氏名は、遺言者の同一性が確保されていれば有効です。
戸籍上の氏名でなくとも、通称やペンネームでも有効です。
氏名部分(署名部分)は、遺言書そのものか、遺言書と一体となるものに記載する必要がありますが、遺言書が数枚になる場合でも、署名は一枚にされていれば有効となります(最高裁昭和36年6月22日)。
■ 押印
印章に制限はありませんので、実印でなくともよく、三文判や指印でも有効です。
花押は、押印とは同視できませんので無効です(最高裁平成28年6月3日)。
押印の場所は、遺言が書かれた用紙にあれば足ります。氏名の隣になくても構いません。遺言書を入れた封筒の綴じ目に押印がある場合、有効とされています(最高裁平成6年6月24日)。封がなされていない封筒にだけ押印がある場合は、無効となる可能性があります。