相続法改正 遺言制度③
弁護士 長島功
これまで,遺言書の作成,保管についてご説明をしてきましたので,今回からは,遺言者が亡くなった後の遺言内容の実現に関するものとして,「遺言執行者」についてお話ししたいと思います。
遺言は,遺言者の死亡によって,その効力が生じますが,遺言の内容を実現するには,一定の手続が必要な場合があります。例えば,預貯金であれば,口座の解約・払い戻し,不動産であれば,相続の登記,家財などの動産であれば,引き渡しが必要となってきます。
このように,遺言の内容を実現するために必要な手続を行う権利を有し,義務を負う者を「遺言執行者」といいます。
この度の相続法改正で,この遺言執行者についても改正がされた点がありますので,今回はまず総論的なものをご説明し,その後,回を分けて各論的なお話をしていこうと思います。
まず,総論的なこととして,遺言執行者の法的な立場について,お話していきます。
遺言執行者は本来,遺言者の意思に基づいて,遺言を忠実に実現しなければならない立場にあり,ときには相続人と利益が対立する場面もあります。例えば,ある財産を,第三者であるAさんに与えるという遺言があり,その執行を遺言執行者が行おうとする場合,その財産をもらえると思っていた相続人のBさんとは対立関係になってしまうという場面です。ところが,改正前の法律では,遺言執行者は相続人の代理人に過ぎないかのような条文があり,その結果,遺言執行者の法的な立場をめぐって,相続人と遺言執行者との間で,無用な争いが生じることがありました。
そこで,この度の改正で,遺言執行者を相続人の代理人とみなすという誤解を招くような条文は削除されました。また,「遺言の内容を実現するため」,との文言を加筆して,遺言執行者は相続財産の管理その他,遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有するとされました。
その結果,先の例のように,仮に遺言者の意思と相続人の利益が対立するような場合でも,遺言執行者は,あくまで遺言者の意思を忠実に実現することを目指して職務を遂行すれば足りることが明らかになりました。
このように,相続法改正で,混乱を招くような条文が削除され,無用なトラブルが起きないよう,遺言執行者の基本的な立場が明らかになり,さらに個々の場面でも,遺言執行者の権限や義務が拡大されましたので,その点は次回,ご説明しようと思います。